9.溢れる

うちに帰り、私はゆっくりと自分の胸の痛みを醍に打ち明けた。

彼にとったら、きっとくだらない話。

そんなことで今まで悩んでいたの?って思っているかもしれない。

だけど、醍は真剣な眼差しで最後まで黙って聞いてくれた。

自分の気持ちを全て吐露したことなんて今まで誰にもなかったこと。

どうしてか醍には素直に全てを話せた。

神様なんかいないんじゃないかって思った惨めな自分のことですらも。

感情が高ぶっていたのか、私の手は僅かに震えていた。

その手をそっと握り締めた彼が言った。

「こんな風に手を握られることも、まだ辛い?」

初めて手を握られた時は戸惑っていたけれど、今は握られることを自分が求めているような気さえしている。

だけど、そんな恥ずかしいこと言えるはずもなく、うつむいて首を横に振った。

「和桜の気持ちを知らずに、さっきはキスしてごめん。辛かったよねきっと」

辛くなんかなかった。

すごく嬉しかったのに。

そう言ってしまいそうになる自分が恐くもあった。

言葉にしたら一気に気持ちが溢れそうだから。

止めなくちゃならない思いが止められなくなる。

もどかしい自分の気持ちをどこに持って行けばいいのか迷っていた。