4.何者?

館内に17時の鐘が鳴り響いた。

毎日聞き慣れた鐘の音がやけに長く感じる。

全ての鐘の音が鳴り止むのを待って、私はパソコンを閉じ立ち上がった。

「お先に失礼します」

「ああ、お疲れ」

館長が新聞に目をやりながら片手を挙げる。

「明日の搬出作業、朝早くから大変だけどまた一緒によろしくね」

植村さんもパソコンを閉じながら私に声をかける。

「はい、明日もよろしくお願いします」

私は頭を下げるとバッグを肩にかけ事務所を後にした。

胸がいつもより早い速度でトクントクンと鼓動を奏でている。

彼が待っているであろう玄関に近づくにつれ、その鼓動は速くなっていった。

本当に待ってるなんてことないよね?

目の前の美術館の門をくぐると、その向こうに黒く光るものが見える。

美しい黒いセダンが一台、小さめのエントランスを占領していた。

車の扉が開く音がし、その運転席から出て来たのはやはり彼だった。

「おつかれさま。さ、乗って」

助手席の扉を開けた彼は優雅に私をエスコートする。

あまりにも自然な流れに躊躇することも忘れてその助手席に乗り込んでしまった。

ふかふかの大きな革張りのシートに包まれる。

運転席についた彼は音もなく車を発進させた。

吉丸って人は、どういう人?

こんなラフな恰好で自由な感じで仕事をしていて、そしてこんな高級車を乗り回して。

とんでもない人の横に乗ってしまったのかもしれない。

こんなきれいな顔をして実は悪の組織の人とか?

そんなことを考えていたら急に恐くなってきた。

「あの、やっぱり降ろして下さい」

国道に入った時、私はうつむいたまま小さく呟く。