「ちょ、ちょっと待って!な、なんで?」

「く、苦しいって…離して…」

いきなり異動の話をされた私は、美玲の胸ぐらをつかむような形で、追い込んでいた。

「あ、ご…ごめん」

「ちょっとここじゃ、目立つからこっち来て」

私から解放された美玲は、会社の入館ゲートを過ぎた所で、話をしていたせいで周りから注目を浴びていた事に気がつき、慌てて奥へ私を連れて行った。
美玲は、周りに人がいないのを確認してから、小さな声で話し出した。

「さっき、鳥越部長が秘書課室長の氷室さんと話してたの。高瀬涼香の秘書課への人事異動の件、頼みますね。とかなんとかって!」

「…なんだ、話だけ?じゃぁ、大…」

「丈夫じゃないに決まってるでしょ!まだ内示出てないけど、人事部部長の鳥越部長と秘書課のボス氷室室長が話してたのよ。決定に決まってるじゃない!」

「やっぱりなのかな…」

「ちゃんと通達出たら教えるけど、なんとか逃げる口実考えときなよ!」

美玲から言われた言葉が、遠く感じられた。
うん、分かったと生返事だけをして、更衣室に向かった。
頭の中でぐるぐると、秘書課への異動と言う言葉が回っていた。

どうして秘書課?
誰の?

あー!
フランス支社長って言ってたから、その支社長の秘書課なのかな…

始業時間になっても、私の頭の中は晴れないでいた。