『えっと、
君は僕の知り合いかい?』

目を覚ました彼の口から
発せられた言葉は
私の胸の内を抉りました……

『えぇ、同僚兼友人ですよ』

どうにか、笑顔を作り
そう応えるのが精一杯でした。

本当なら、“恋人”でもあります。

それに、何時もの彼なら
私の笑顔が作り笑いだと
直ぐに見抜いていたでしょね。

『そうなのかい?

友人を忘れるなんて……ごめんよ

名前を聞いてもいいかな?』

彼にしてみれば
初対面同然ですもんね(苦笑)

『いえ……

雲雀瑠色と申します。

あなたと同じ職場で
日本史の教師をしています』


『◆◆高校の教師なんだね』

職場はちゃんと覚えていますね。

『そうです。

年が近いこともあり仲よくさせて
いただいてたのですが
私のことだけを忘れて
しまわれてしまったようなのです(苦笑)』

いくつか、質問をしましたが
基本的なことは覚えているようです。

忘れているのは
私に関してだけ……

今度は作り笑いではなく
本当の苦笑をして言いました。

『ナースコール押しますね』

無理やり、話を変えました。

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あの後、どうやって
帰宅したのか覚えていません。

こんな状態では仕事に行けないですね。

今日は休ませていただきましょう。

体調不良ということで休みました。

『茉生』

“恋人”だった時のことが
走馬灯のように駆け巡りました。

食べる気が起きず
コーヒーだけ飲み、
後はずっと寝室にいました。

“恋人”として愛しています。

例え、あなたに忘れられても……