それから私はかなりの長い時間、私の世界の事を話し続けた。

「つまり、お前の世界には戦が無いのか。」
「はい。世界中から戦が無くなった訳では無いですが少なくとも私自身には戦争の経験はありません。」

それを聞くと白起は複雑な表情を見せた。
「良い世の中だな。自分が生きるために他人を殺さなくて良いのか。だが俺には合わないだろうな。人を殺す以外に俺の存在価値はないのだから」

私はなぜか白起の言葉に腹が立った。
「そんな事はないと思います。そうやって自分を卑下しないで下さい。少し不愉快です」

すると白起は驚いた顔で言った。
「お前は変わった奴だな。どうしてお前が怒る。」

そういわれて私は自分でも不思議に思った。
もしかしたら、私は白起の事が少し好きになってきているのかもしれない。

「私はあなたを信用して、自分の過去を話しました。そしてあなたに聞いていただけて凄く暖かい気持ちになりました。そんなあなたが自分を価値の無いものと卑下するところを聞くとなんだか嫌な気持ちになるんです。」

私がそう言うと白起は何かを考えるようにじっと私を見た。
そして刀を抜くと私に突きつけた。

私は驚いて叫んだ。
「何をするんですか」

すると白起は私を再び縛り上げて言った。
「気が変わった。お前は絶対に俺の女にする。それまでは捕虜としてここにいろ」
「私を解放するって言ったじゃないですか。」

私が白起をにらみつけると白起は言った。
「そういえばお前、村の人間に随分、感謝しているそうじゃないか」

私は信頼し始めた白起が突然豹変した事への悲しみと驚きで反応できなかった。
「俺は正義など心底無駄だと思っている。俺が略奪を禁止するのは、合理的でないからだ。だが目的があれば話は違う。どうする?俺の女となるか、それとも村人が皆殺しにされるのをここで見ているかどちらが良い。」

私は迷わなかった。
その質問の答えなど当の昔に決まっていたからである。

「分かりました。あなたの女になります」

それを聞くと白起は優しい顔で言った。
「村人を救うためなら喜んで自分の身を差し出すのか。やはりお前は真っ直ぐで美しい人間だ。」

私は負け惜しみで白起に言った。
「あなたは、歪んでいて醜い最低の人間ですね」

「そんな事、お前に言われなくても知っているさ。」
白起は私の言葉に悲しげな顔でそう答えたのだった。