「そうなると、こことお前が来た世界は大分違うようだな。ここに来て一番困った事は何だ?」

私は言った。
「お風呂ですね。」

白起は不思議な様子で言った。
「水を湯で沸かすのだろう?ここにもあるじゃないか」

私は言った。
「全然違いますよ。私達平民は毎日入れる訳ではないですし、髪を洗ったり、手入れしたりするのは道具が無いので一苦労ですから。」

すると白起は私の髪を見て言った。
「その割には綺麗な髪をしているな」

私は呆れて言った。
「そうですか。私としては相当、荒れているんですがね。まあ、男性であるあなたには分からないかも知れませんね」

すると白起は笑みを浮かべて言った。
「お前にはお世辞が通じないようだな。そういう所も好ましい。俺の女になれば毎日紙の手入れは出来るし、風呂にも入れるぞ」

私はこの期に及んで私を口説こうとする白起に少し怒りを覚えたが、同時に慣れても着たため受け流して言った。
「そういう白起将軍は、どうなんですか?どれ位の頻度でお風呂に入ってるんですか?」

それを聞くと白起は答えた。
「俺か?俺は入った事がないな。体は水をかけて洗っている」
「どうしてですか?」
「危ないからだ。風呂に入っている間に、敵に襲われたら大変だろ。」

私はそれを聞いて思わず言った。
「もったいない」

すると白起は意外な顔をして言った。
「もったいない?どういう事だ?」

私は自分がお風呂が好きだった理由を思い出していった。
「あったかいお風呂に入っていると、自然とリラックスして身体中の力が抜けるんですよ。そうすると段々頭の中もぼんやりしてきて、生きていて大変な事とか、その時だけは忘れられるんです。絶対あなたもはまると思いますよ」

すると白起は今まで見たことのないような優しい表情を浮かべて言った。
「全身の力が抜けるのか。それは良いな。よし。天下を統一した暁には褒美として風呂を作ってもらうとしよう」
それを聞いて私は笑ってしまった。

すると白起は不満げに言った。
「何がおかしい?」

私は言った。
「いえ。随分と可愛いらしいことを仰るのでつい」

すると白起は寂しげに言った。
「天下統一した後の話だ。もはや俺が将軍である理由は無い。そうなってまで虚勢を張って周りを畏怖させる必要はないだろう」

私はそう語る白起の様子を見て少し複雑な気持ちになったのだった。