火曜日

我が社は、建設業界でも名の知れたゼネコンの子会社でありながら、自社ビルも都会の一等地に構える、中堅の建設会社。

私や美園のような事務職の女性の一部を退けば、ほとんどの社員が大学の新卒者。

真っ新な状態で一から育てたいという社長の方針から、時枝君みたいな中途採用は珍しく、ましてや去年の秋口の半端な時期だっただけに、当時は、よほど優秀な人材か、上層部の縁故関係じゃないかと、かなり噂になったものだ。

『時枝、営業2課に持ってく伝票、用意できてるか?』
『あ、えっと…まだです』
『何やってんだ!時間かかりすぎだろ』
『す、すみません』

いつものように、同僚の菊田さんに叱られ、あたふたしている時枝君。

すぐに前者でないことは明白になり、残る後者が濃厚となったけれど、結局のところ誰の縁故関係も立証できず、そのうち皆、興味も薄れてしまった。

『萌』

美園に名前を呼ばれ振り向くと、いつの間にか、隣の席の机に片手をつき、怪しげな視線をこちらに向けている。

『さっきから、何で、時枝君見てんのよ?』
『見てなんかいないよ?』
『嘘、ずっと目で追ってたでしょ…あんた、まさか』

ドキッ

『な、何?』