ケータイ小説 野いちご

アローン・アゲイン

アローン・アゲイン

「なんだか夏のようね」

海沿いの駐車場に停めた車のドアをロックする僕のサングラスに、逆光で眼を細める彼女の笑顔が囁く。
季節は秋を演じているが砂浜を流れる西からの風はカレンダーとは違う8月の清涼感を連れ、半袖を揺らしていく…
二人は波打ち際に陰を落とす白いカフェへと入り、一番奥にある見晴らしのいいコーナーへ進むとテーブルを挟んで腰掛けた。
ヴィラの雰囲気を醸し出すハイビスカスの香りがリゾート感を増す中、ホワイトラワンに見立てたコテージ風の壁紙を背に上品な制服を着たウエイトレスからメニューを受け取ると、僕はミート・ガルフェ風シュリンプ・ソースパスタとオニール海老の冷鮮サラダを二人分注文した上で、

「彼女にはバドワイザーを…
僕はスパークリング・ウェッジのアルコール抜きをライムで」

だがメニューを返そうとするも、ホールスタッフの彼女は復唱する事なく笑顔でドリンクページを僕の前で見開くと、店の名に相応しいお洒落なカクテルを指先を揃えた右手で推奨した。

「ノンアルコールですと、こちらの〈コースト・ビュー〉がお薦めですよ」

ヴィラデル・クーラーに似たシャンパンカラーだが、ドライシトラスの爽やかなフレーバーとミントの香るセピア・ゴールドのミックスジンジャーは "インスタ映え” にありがちなフルーツテイストではなく、適度な芳醇感と甘過ぎない後味が特徴的なトニック系だ。
僕は迷う事なく、右側の〈SelfMake〉をオーダーした。

「ではそのレギュラーサイズを…あと追加でグラスを1つ」

スクリーンの様な窓からは鮮やかなセイルが最後の夏を上映している。
暫くするとライムピールで爽やかに盛り付けられたブロックアイスとドライ・ジンジャーのハーフボトル、その横を彩る七宝焼きのコースターには良く冷えたグラスが2つ届けられた。
夕凪の沖合いを縁取る銀色のウェーブライン───
そんな赴きで名付けられたライト・カクテルをステアする彼女の指先がライムピールを氷に浮かべるタイミングで、僕は汗をかいたビールをグラスへと注ぐ…
一瞬の沈黙後、傾け合うグラスが “カチン” と、切れの良い音を立てると、

「再会を祝して」

その言葉に彼女は、はにかんだ微笑みを見せた。


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