「志望動機、教えてもらえますか?」

じりじりと頭の先を照りつける陽射し。八月もそろそろ死んで行く頃、私は小さな部屋にいた。

「映画が好きで、アニメも好きで……だからそれらに囲まれながら働きたいなって」

持参した履歴書と私の顔を交互に見る女性と、その横で何やらペンを走らせる男性。

面接と言うのは何度受けても、幾つになっても慣れやしない。

たかがバイトと皆は笑う。
だけど何故か名前もよく知らない人に私の人生全てを書いた履歴書を差し出した瞬間に相手の一挙手一投足に喉が上下してしまうのだ。

「……音楽とかは?」

丸い目をほんの少しだけ動かして女性が静かにそう問うた。慌てたように男性がすぐさま口を開く。

「本は?」

求人サイトに書かれていたのはレンタルショップ店員の募集だったはずなのに。
何故そんな事を聞くのだろうか。
そう思わずには居られなかったけれど、口が裂けても言えないのが面接マジックだ。

「あ、えっと……音楽も本も好きです。はい」

そして、特に好きでは無くても、ノーと言えないのはお国柄、とでも言えばいいだろうか。

「じゃあ採用でしたら一週間以内にお電話かメールでお伝えします。今日はありがとうございました」

感情のあまり感じれない一文を肩に担ぎ、入口目掛けて早歩き。
従業員の好奇の目から逃げるように涼しい店内から抜け出した。

自動ドアを出て一歩。

そっと振り返り店を見上げる。最近引越してきたばかりの私には、それは見知らぬ建物で胸が踊ると言うよりはゲームの新しいステージに進んでしまった、そんな気持ちになっていた。


長年付き合っていた彼氏と別れ、同棲していたマンションから放り出された私は少し離れたこの街にやって来た。
都会とは言い難いがそこそこ、活気のある街。
それが物件内覧の時に抱いた印象。

「取り敢えず前の職場は遠くなっちゃったから通勤が苦痛。近くなきゃ長く働けないよなぁ」

クーラーを付けた部屋で求人サイトを巡り、ぼんやり呟いて見つけた

【レンタルショップスタッフ募集!新作旧作があんな値段で借りれちゃう?!】

なんて謳い文句に釣られて応募フォームを開いてあれよあれよと今日を迎えた。