盛夏を迎えた今日この頃。
廊下の窓から大きく息を吸い込めば、緑の匂いが私を包む。


午後の日差しは午前にも増して強まって、もうすぐ夕方を迎えるってのに、太陽さんはキープオンシャイニング。



「まだ6月なのに暑すぎ。

そろそろ溶けてなくなりそう」



清掃時間、校舎のあちこちからゲラゲラと楽しそうな声が聞こえてくる今、雑巾片手に立ち尽くす私、



佐倉 杏(さくら あん)。高校 2年生。


昔から暑いのはめっぽう苦手。


だって、寒かったら着ればいいけど、暑くたって脱ぐのには限界があるんだもん。



廊下の壁に背中を預けると、薄いワイシャツとキャミソール越しにほんのりと冷たさを感じて気持ちいい。


あー、かき氷とかソフトクリームとか……キンキンに冷えたジュースが飲みたい気分。



「はいはい、これくらいじゃ人間は溶けないから。

口ばっかり動かしてないで、早いとこそのバケツ片付けて教室戻るよ」



そんな私に、親友のユズは雑なツッコミを1つ入れるだけ入れて、自分の持っていた雑巾をすぐ側にあったバケツの中へと放り込んだ。



──ポチャン、と水の跳ねる音と共に雑巾が水の中へと沈んでいく。


それを見ながら「あーあ、冷たくて気持ちよさそう」なんて思ってるから、やっぱりもう溶ける寸前だと思うんだけどな。