とある日の、昼下がりの王宮。
そこにある王太子の執務室でジュールは仕事をこなしていた。


そこに、走る足音と、微かに聞こえる声に執務室にいたジュールに秘書官のイルバ、侍従のウィーゴはその音と声にここに向かっている人物に当たりをつけ、ウィーゴは執務室にあるミニキッチンへと姿を消した。
出来る侍従はここに向かってくる足音の主に備えて準備に行ったのだ。


『姫様!!走ってはなりませんし、いくらご兄妹でも仕事中の王太子様に先触れも出さずに訪ねてはいけません!!』


きっと、叫びながら必死に追っているであろう妹の侍女のラナには頭の下がる思いだ。
あのお転婆な妹によく仕えてくれてる。


そして、パタパタとした足音が止むと同時にバーンと音がして執務室の扉が開くと、深窓の姫君の見た目お淑やかなお転婆の妹エリーザが現れた。


予想通りの妹の出現に、キリを良く終えた仕事を片付けてイルバに書類を渡す。
それを受け取り、イルバはメガネを上げながら口を開いた。


「エリーザ様。ここを訪れるのは構いませんが、ラナの言う通り親しき仲にもという言葉もあります。きちんと先触れはお出し下さい」


そうして、一言苦言を呈したイルバはエリーザの返事も待たずに書類を関係の担当書記官に届けるべく部屋を辞して行った。