夏に彩られた都会の風が夜の香りへと着替えはじめる。
ミントブルーにオレンジリキュールを浮かべ
たトワイライトカクテルの空を飾るシリウスの光が無くしたダイヤの様に輝きはじめる午後7時、僕はベイサイド・アベニューからサウス・ストリートへとハンドルを切った。
海に面したクルージングへと続くルートには潮風に光るパームツリーと波に映るアクアシティの美しさが、僕の瞳を誘い続ける。
ビジネス街へ入ると僕は取引先へのアポイントの確認の為、連絡を入れた。
シルバーグレーのセダンを追い越し、車線変更のミニクーパーを左へとかわす。
週末の商談について簡単な打ち合わせを澄ませると、見慣れたトニーの店を横切り、レンガ造りの壁がお洒落なK'sバーから賑やかなネオンのナイトクラブへと交差する路地を抜けた所でシグナルに捕まった。
信号待ちで停車中の真っ赤なアウディの鮮やかなテールの後で僕は明日の予定を思案していた時、ふと外した視線の先に進行方向とは別の歩道から近付いて来る女性の姿が何故か気になり始めた。
信号が変わり、動き出す雑踏から車へと駆け寄ってくるシーンの中で、その女性は確かに僕の名前を呼んだ。
タクシーレーンで車を停め振り向くと、歩道から飛び出した彼女に対向車のクーペが急ブレーキをかける。
クラクションの乾いた音がアーケードに響き渡る中、息を切らしながら助手席へと乗り込む彼女が言った。

「ねぇ、ドライブしよ!?」

一瞬、止まりかけた時間は彼女の笑顔で再び動きはじめる。
僕はウインカーを上げ、後続のワーゲンが過ぎ去るのを待ち、路側帯からメインストリートへと合流した。
突然のアクシデントを気遣う彼女は、冷静に僕の反応を伺う。

「これからの予定はあるの?」

「全てキャンセルしたから心配しなくていいよ」

軽く舌打ちの振りをする僕の笑顔に、彼女は小さく深呼吸した。
その雰囲気は、ようやく彼女の気分をリラックスモードにしてくれた様子だ。
しかし、偶然を装った運命の歯車は新たなる結末の序章に過ぎなかった。
その始まりと終わりが終焉を迎える時、アナザーストーリーはもうひとつの意外な未来へと傾いてゆく。
二人が最後に見る終局の果てがどの様な意味を持つのか、今はまだ知る由もなかった────