時間が許す限りやっておこうと、リリアはオルキスの執務室の端っこで、ワルツのステップをひとりでおさらいしていたが、ふとした瞬間、動きが止まる。

昼間のユリエルとの出来事が、胸に苦しく迫ってくるのだ。

あの後、アレフに連れられ城を出て行くユリエルの後ろ姿を、リリアは自分の身の周りのお世話を続けてくれている侍女と一緒に、廊下の窓から見ていた。

オルキスはユリエルが欲しかったのはアシュヴィ王の妻という身分だけだと言っていたが、王子という身分を差し引いてもオルキスが魅力的な男性だということに変わりはなく、きっとユリエルも彼自身に惹かれていたはずではと、どうしてもリリアは思ってしまうのだ。

しかしそんな思いを抱いたところで、すでに城を去ってしまったユリエルに確認する方法はない。

リリアは大きく深呼吸をしてから、練習を再開する。

オルキス自身に先ほどの選択を後悔させないためにも、そして一人でも多くの民にオルキスの花嫁として認めてもらうためにも、今は頑張るしかないとリリアは奮起した。

口でリズムを刻みながら集中していたため、リリアはしばらく周りが見えていなかった。

そのため少し遠くから発せられた笑い声に大きく肩を跳ねさせて、リリアは大慌てで振り返る。