アレフにオルキス、そしてリリアの順番で時計塔の階段を降りてゆくと、入り口付近に鎖帷子姿の男性が立っていた。

彼はオルキスの姿に気が付くと、しっかりと背筋を伸ばし敬礼する。


「王が呼んでいるのは俺とリリアだけか?」

「いえ。ボンダナ導師の所にも別の者が向かっております」

「ボンダナ……そうか、ありがとう」


オルキスは足を止めぬままに、男と言葉のやり取りをする。

塔を出てほんの一瞬足を止めるも、自分の乗ってきた馬車が既にそこにあることに気づき、即座にそちらへとつま先を向ける。

アレフも同じように、馬車の傍らで嘶く黒毛の愛馬を見て、城へと戻る準備をすっかり整えておいてくれていた使いの男性へと感謝の言葉を述べた。

もちろんリリアもオルキスを追いかけるように歩き出したのが、「……あの」と遠慮がちに話しかけてきた幼い声に足が止まった。

振り返ると、時計塔の陰からリリアの前へと父親と娘が進み出てきた。父親が促すように、軽く娘の背を押す。


「あの……このお花を……お姉ちゃんに」


女の子の手には、どこかから摘んできたのか、可愛らしい黄色の花が一輪握りしめられている。