「ママぁ!ごめんなさいぃ!」

泣きじゃくりながら優里に謝る優愛だが、優里にとってはその声すらも耳障りだった。

「別にあんたが謝る必要ないんじゃない?ジジもババも優愛の味方だし」

今の優里からしてみれば周りの人間は全て敵か味方かの二択だ。そして味方に分類される人間はたったの一人も存在しない。優里が我を忘れ怒っている時は優愛でさえ自分を責める敵なのだ。先程の「冷たい」の一言もそうだ。こちらは必死に感情を抑えて恐怖を丸め込み居間に居たと言うのに、そんな事も露知らず自分の話ばかり。それでも必死に返事をしていたのにも関わらず態度が冷たいと責める。そう、優里は自分が責められていると感じていたのだ。他人の何気ない一言が誰かを傷付けるのはよくある話だが、鬱病になってしまった優里は言葉という凶器に対して人一倍敏感になっている。だからこそ他者からしてみればそんな事でと思う様な単語でも傷付き、責められていると感じ、激怒するのだ。

「ううん、自分が悪かったです。だからごめんなさい…行かないでぇ…」

優里も頭では分かっている。優愛に非はないのだと。全て自分の問題なのだと。だがこの感情を抑える術がなく、優愛に当たってしまっている。よく理解しているのだ。そして自分で自分をコントロール出来ない事に恐怖し、又失望と怒りを感じていた。

「……はあ、もう良いよ。だから泣かないで」

若干声音が優しくなったのを感じたのか、優愛は少しずつだが泣き止んだ。優里は必死に自分の感情を抑え込み怒りを鎮火させる。30分程して漸く平常な心に戻り、改めて自分の行いに罪悪感を覚えた。

「優愛、ごめんね?ごめんなさい…」

「ううん、ママ悪くないもん」

そう言葉にする優愛に涙が溢れてくる。時間が経つと、何故自分はあそこまで怒りを感じたのか分からなくなった。それ程にコントロールが利かなくなっている証拠でもある。

「ママね、ちょっと疲れちゃったから寝たいな…」

「わかった。おやすみ」

そして怒るとその分体力を消耗し、体も心も疲れる。薬の相乗効果もあって優里は眠気に耐えられなくなり、そのまま眠りについた。