『アリス、アリス』
誰かがあたしを呼んでる。
その声は、今にでも崩れ落ちてしまいそうなほど儚い。
瞼を開けようにも、どうにも重たくて開いてくれそうにない。
『…リス、……ス!』
温かい何かがあたしの頬を濡らした。
ああ、あたし泣いてるんだ。
そんなことを思っている間に、声はだんだんと遠くなっていく。
何度も何度も、あたしの名前を叫んでいる誰かの風景が見えて、死にたくないと思った。
「ありがとう」
声が伝わったか分からない。
だけど、この人にお礼が言いたかった。
あたしの意識がプツリと切れると同時に、視界の端っこでニヤリと笑うウサギを見たような気がした。