春の木漏れ日が差し込む森の奥に1人の子供が住んでいる。森でその子に会えたものはどんな病も治ると言われているが、辿り着けるものはほとんどいない。まるでどこかで見たようなドーム状の白い二階建ての家に住んでいるのは、ニャイト。半獣人で不死身の女の子だ。今日もニャイトは怪我をした人の為の薬を工房でせっせと作っている。
「よーし!これで完成♪」
僅か120cm程しかないニャイトの数倍はある大釜の前で台に乗り棒を掻き回していたニャイトは、くるりとその緑眼の瞳をまわし満足げに独り言を呟いた。
大釜の中身はなんとも言えないドロドロとした紫色をしている。
「足りなかった解熱剤の出来上がりっと…冷ましてから瓶に詰めたら、補充はおしまい。さて…そろそろお昼ご飯でも食べようかなぁ。」

台から降りたニャイトは、一階の工房からお店を通りリビングへ行くためその扉を開ける、するとドアがひっかかれる音がした。
「おろ…お客様かな?はぁーい…どちらさま?」

そこには怪我をした人狼が立っていた。それも、人狼にしてはこの世界では珍しい銀の毛並みをしている。その毛並みも怪我と血で染まっていて今はほとんど見えない。

「グルルルル……」

「お客さん、怪我してるじゃない!ほらほら中に入って!」

ニャイトは慌ててその人狼を中に招き入れ、治療を始めた。しかし、数分後人狼の叫び声が聞こえたのは言うまでもない。…そう、ニャイトは薬を何でも作れるしかし、問題は、それが物凄くまずいという事が唯一のこの場所の欠点だった。

ニャイト本人曰く
「良薬は口に苦しなの!がまんがまん!オスなんでしょ?あんまり暴れると傷が広がるよ!」
「グァウウウルルル!?!」
と、この通り全く改善する気はない。聞こえてきた叫び声に近くにいた動物達もそっと人狼に同情し見守ることにした。
暫くすると叫び声も聞こえなくなり。辺りはまた静かさを取り戻した。

ニャイト「これで暫く寝てれば治るからね?大人しくしてるんだよー?暴れたらオスじゃ無くしちゃうからね?」
「グル………!」
治療という名の空き部屋で、治療された人狼はすっかりニャイトの薬の不味さにやられて大人しく寝そべっている。その目はどこか薬の苦さを物語るように涙が滲んでおり心なしか少しニャイトを睨んでいる。
「少し休んだらご飯作るからね?それじゃぁお休み♪後で来るよ〜」

ニャイトは慣れているのか、する筈だった昼食を食べにリビングへと消えていった。

この最悪な出会いこそニャイトと銀の初対面であった。自分の体の半分もない少女に、治療された挙句ほぼ脅され臥してしまった人狼は複雑な気持ちで居たが。先程のニャイトの言葉を思い出し身震いをし眠ることにした。

「ん〜♪美味しい〜♪」
当の本人ニャイトはそんなことつゆほども思わず昼食に専念していた。