――拉致監禁。人を無理やり連れ去り、行動の自由を束縛して閉じ込めること。20年生きてきた中でそんなことをされた経験などなかったし、今後もそんなものとは無縁な人生だと思って生きてきた。


 ところが今、私――藤宮 唯は、ここが何処なのか全く分からない小さな部屋に監禁されている。


 地下に作られたこの部屋は、太陽の光すらも滲まない。私がここに捕らわれて、もう半月は経っただろうか。5日を過ぎたあたりから、私は時間の感覚をなくしてしまった。光の届かないこの部屋では、今が朝なのか夜なのかすら分からない。


 ほんの少しでも身動ぎをすると、ちゃり、と小さな音が鳴る。私の両腕を戒め、外の世界から私を隔離する音が。


 その手錠には鎖が伸びていて、その先はベッドの柱にしっかりと巻き付いている。たかだか数メートルの長さしか持たないそれは、私に自由を許さない。


「お待たせ、唯。今日は唯の好きなリゾットだよ」


 四方をコンクリートで囲まれた異質な空間に、男が食事を運んでくる。鼻を掠める甘いミルクの匂い。揺れる黒髪。ゆるりとした笑みに滲む、慈愛を真似たような色。毎日繰り返される光景に、慣れてしまったのはいつからだろう。