夢を見た。 それは 母親の夢。
僕が殺した母さんの夢。


“ 幸ちゃんがままを殺したんだよ?”


許してくれとは、頼まない。
だって母親を不幸にしたのは僕だから。


“ ごめんなさい…ごめんなさい。母さん、 ”








「ぅっ…!...っ、はぁ、はぁ、夢か…
ああ…もう。本当。勘弁して、」


最悪な夢とともに起きた時刻はぴったり4時半。
魘されていたせいか、服は大量の汗で湿っていた。

服着替えよう。

僕は重たい体に逆らうように布団から出ると新しい服に着替えた。


着替え終わって布団戻ると、
子猫のことを思い出した。

「今日迎えにいかないとな。」

午前5時頃。僕はまた眠った。





「プルルルルルルルルルルル」

鳴り響く音に起こされた。

……うるさいなあ
アラーム、かけた覚えないのに。

寝ぼけた目を擦って僕は、画面を見た。

「父さん…」

紛れもなく父だった。
あの日から何年ぶりなのかわからないほど、久しぶりだった。
おそるおそる電話に出る。

「あー、もしもーし?」

久しぶりに聞く、父の声。少し枯れているような気がしたが昔のままに思える。

「おーい、幸生?聞こえてるのか?」

2度目の声でやっと我に返る。

「ああ、うん、聞こえてるよ」


元気にしているのか、ご飯食べているのか。
奥さんとは上手くいっているのか。
頭の中で動き回る言葉に嫌気がさし、僕は何も聞かないことにした。

「どうしたの ? いきなり。」

次の瞬間、

「明日、母さんの命日だよ、墓に手を合わせに行…」


ブチッ。

それ以上聞けなかった。

「…ぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁっはぁっはぁっ」

息がだんだん荒くなる。
まるでこの部屋が宇宙空間になっていくような感覚だった。

息ができない


「プルルルルルルルルルルルルルル」


2度目の着信音がなった。
父ならば出る気はない。
出られない。

“ 動物病院。”

なり続ける着信音と共に呼吸がしやすくなるのを感じた。
呼吸が整うのを待って、電話に出た。


「は、はい…っ」
「幸生さん、、ですよね!あの、、約束の時間を30分も遅れていたので、心配になってかけさせていただきました!!」


にこさん?


約束の時間って、なんのこと。あの夢を見ると、よく記憶が飛ぶからかな。よく思い出せない。

「あの…?まさか…覚えてらっしゃらないですか?」
「… はい、すいません、記憶が曖昧で」
「では、とりあえず、動物病院の方へ来て頂けますか??」
「今すぐ向かいます」


体が自然と動く。
急いで身支度を済ませ、家を出た。


「ついた…」
「幸生さん!!こっち!」

彼女は僕の手を引いた。
僕は何も言わず手を引かれた。

「今日もお家に入ってください」
「ありがとうございます」


いつの間にか手は離れていて、前回と同じようにゆっくり襖を開ける。ああ僕は子猫を迎えに来たんだ。

「あぁこんにちは」
「こんにちは」

目の前に座布団が用意されていて
その上に静かに座った。
僕が座るのと同時に獣医さんが話し始めた。

「子猫ちゃん病気、持ってなかったよ、
取り敢えず安心だよ、よかったね」
「そうですか、よかった」

獣医さんの優しい声と笑顔を見て、
僕は胸をなで下ろした。
少し不安そうな顔をした獣医さんは、
「それで君、あの子猫ちゃんどうするか決めているのかい?」 と僕に解いた。

ああ…そっか、何も考えてなかった。
僕が命を育てる権利などあるんだろうか。
正直、何も答えられない。

黙っている僕に更に不安そうな顔を見せた。

襖があく。子猫を抱いた彼女。

「はーい、猫ちゃん、元気ですよー!」

子猫は僕の体を一生懸命よじ登ろうとしている。その姿を見て、胸がいっぱいになった。

「連れて帰ります」

衝動と勢いで出た言葉だった。

「よかった、じゃあわからないことがあったら
娘がある程度知ってるから聞いていいからね!
おっと、次の診察の時間が…っ」

それだけ言うと急いで部屋を出ていってしまった。

あ…まって、診察代。
と思っていると、再び襖が開いた。

「言い忘れてたよ…!診察代、要らないからね、子猫ちゃんと楽しい生活してね!」
「え、あの、すいません、有難うございます。」

僕の返答を聞くと今度こそ襖が閉まった。
いいんだろうか、とはおもったが、ここはご好意に甘えることにした。
すぐ後ろから、笑い声が聞こえて、振り返ると、

「あ、すいません!
父いつもあんな感じだからつい、!」
「いいですね」
「それで、幸生さん、猫ちゃん飼った経験とかってあるんですか?」
「え、いや、動物は一度も」
「それじゃあ …行きましょう!」

急に立ち上がった彼女は、僕の返事は聞かないで、部屋から出ていってしまった。
僕も子猫を抱き上げて、部屋を出た。
彼女は玄関で前で待っていた。

「わたし鍵を閉めるので、先に出ててください」

靴に履き替え、外に出る。
子猫も大人しく抱き抱えられたまま。

「夕陽ケ丘駅にある所にペットショップあるのしってますか?」


夕陽ケ丘駅 。


「いえ、その駅の付近にはあまり」
「そうなんですか!じゃあ私が案内しますね」
「有難うございます、わざわざ、自分の私情に時間さいてもらってすいません。」
「違うんです、実を言うと私が行きたいだけなんですよ、」

彼女は少し恥ずかしそうに笑った。


ペットショップに来るのは
子供の時以来だった。

「普通はトイレと買うものなんですけど、子猫なのでまだ自分で排泄できないんです」
「そうなんですか?」
「だから、少しの間は代わりに排泄をしてあげなきゃなんですけど、もし分からなかったら、調べたら出てくると思うので」
「はい。餌は、キャットフードはもちろん食べられませんよね?」
「そうですね、だから哺乳瓶でミルク飲ませてあげましょう!」
「哺乳瓶、」
「ここにありました!」

そんなこんなで、店を出た頃には、もう太陽が沈みかけていた。

「何から何まで教えてもらってありがとうございました。…では。」
「あの、!」
「え、はい?」
「幸生さんは笑わないですね、」
「笑うの嫌いなんです」

僕の素っ気ないと言われがちな返しに気にも留めず笑顔だった。
なにか、紙とペンを出して書き始めた。
何書いてるんだろう。

「私の連絡先です、猫ちゃんのことで困ったら連絡してください」
「え、でも」

受け取るのに戸惑う。

「はい、返されたらショックですからね」

僕のポケットに手を伸ばしてひょいと入れる。

「あ、ありがとうございます、」
「いえいえ」
「では失礼します」
「さようなら」

挨拶を終えると、僕は子猫に目をやった。
疲れているようで、寝ていた。
寒いな。早く家に帰ろう。