「由李、ほら行くよー」

「待って待って……あっ、シューズ忘れてるよ、宮ちゃん!」

「本当だ、ありがとう由李ー」

ご飯を食べたあと、私達は急いでテニスコートへと向かう。

五、六限目の体育は、普通科と特進科の合同授業。

男子はサッカー。女子はテニス。

そして私達はといえば、体育の先生からテニスコートの整備を任されている。

曰く、テニス部だから。

確か、普通科の子も何人か任されていたけれど、彼女達が準備に顔を出したことはない。

部活にも滅多に来ない。

よって、準備はいつも私と宮ちゃんだけ。

二人だとすぐには終わらないから、いつも早めに来ている。

「やっぱり二人だと大変だね」

「まぁ、普通科は面倒くさがって来てくれないしね。授業も真面目にしないし」

彼女の言葉に「そうだね」と共感した。

だけど、この時間は嫌じゃない……嫌じゃなくなったんだ。あの朝から、特別になった。

「ーー」「ーー」

遠くから男の子達の声がして、私の意識はぐんっと引き寄せられる。

その姿を見るだけで、どきどきと心臓がうるさい。

「相良君……」

その呟きは、あっさりと捉えられていたみたいで、彼女はやはり呆れたように首を振った。

それを追いかけるように、彼女のポニーテールがさらさらと揺れる。

「由李も好きだね。確かに格好良いけど、普通科だよ?」

「……相良君は、優しいもん」

唯一、彼への気持ちを打ち明けた彼女に向き合うように立って、その奥を友達と歩いている相良君をこそこそと見つめる。

毎回、盾として使われる彼女は、普通科のことをやはり良くは思わないみたいで。

だけど、決して「やめておきなよ」とは言わなくて、むしろこうして協力すらしてくれる。

「話しかけないの?」

「え、な、何て話しかければいいかな?」

「わ、分かんないよ。普通科の人っていつも何を話してるの?」

「それこそ分かんないよ」

そんな事を言っているうちに、相良くんはグラウンドのほうへ過ぎ去ってしまった。

結局いつも勇気を出せないまま。

私達は顔を見合わせて、二人して溜息を吐いた。