あの人のイメージは、ダークなチョコレートだな・・・

無造作に立ち上げた黒髪と、細くて鋭い焦げ茶色な瞳。


暇つぶしにまたお菓子でも作ろうとスーパーに寄ると、目に付いたチョコレートを見てふとそんなことを思った。

ガトーショコラでも作ってみようかなと思って、ビターチョコと生クリームを買うと、私は誰にあげるわけでもないのに、一人でまたキッチンでお菓子作りを始めた。

きっと甘いのはあんまり好きじゃないだろうな、お酒飲むって言ってたからな、私と同い年のクセに。

無意識に、エイジ君のことを思い出してチョコレートを湯銭で溶かす。
卵を入れて混ぜ合わせると、甘くて苦いチョコレートの香りがたつ。

なんだか変な感じ、ビト以外の男の子のことを考えているなんて。


生地をオーブンに入れて焼き上げると、ちょうどお店の方からお客さんがこっちに来るようだった。


またどうせお母さんの友達だろうと思って、お茶の用意をしようと準備していたら、居間に現れたのは、何故か例のエイジ君だった。



「あ、いらっしゃい!」

無意識にいつもの笑顔でそういうと、彼はちょっとびっくりしたようにそこに座った。

「何か飲みますか?コーヒーでいいかな?」

いつものお客さんと同じようにそうきくと、ビールが飲みたいとかふざけたことを言い出すので、ちょっと睨み付けると「いや、コーヒーでいいっす。」なんてこの前と同じように笑って言った。



何だろ、この人といると調子が狂う。自分を取り繕うのを忘れてしまいそうになる。
本当は、男の人の前では本性を見せたくはないのに・・・


「ねえ、エイジ君って、甘いもの食べれるっけ?」

この前ケーキ食べてたから、食べれるってわかっていたけど、なんとなくそんな風に聞いてしまった。


「さっき試しに作ってみたんだけど、味見してみてくれない?」

コーヒーと一緒に出来立てのガトーショコラを差し出すと、

「ああ、これならいけそう。またビトに作ってんの?」
なんていいながら普通に食べてくれて、ちょっと安心した。


「美味いじゃん。」

そう言ってくれるのがやけに嬉しくて、私はニコニコしながらずっと彼が食べる姿を見つめてしまった。


「ありがと。なんか暇だからさ、色々作ってみようと思ってさ。」


彼は小さなフォークを使って、ひと口づつこぼさず綺麗に食べる。
がさつな大食いの蓮とは大違いだな・・・

それにしても、がっちりした大きな手だななんて、その様子をじっと見ていると
「なんだよ・・・」
ってテレながら言われた。


「いや別に、お行儀よく食べるんだなと思って・・・」





それから私たちは、普通に学校でどうしてるかとか蓮と普段どういう感じなのかと、色々お話をした。
今までこんなこと、話したことなかったのに、何でほとんど知らないこの人とそういう話をしているんだろう?

もう昔からの友達だったみたいな感覚だった