「…痛っ、、」

すぐに目が覚めた。

「あっ!電車……え、」

さっきまで、駅を目の前にして走っていたはずなのに 目の前には小さな祠がある。

「ここ、どこよ…」

走りながら迷子になったのかもしれないと思い 携帯電話を探すも携帯電話は愚か鞄すら見当たらない。

「え、私 夢をみてるのかな」

頬を思いっきりつねろうとしたその時だった。

「おい!!お前、足抜けか!!」
「見慣れない着物を着ているな、お前 どこの女郎だ!!」
「その厚化粧に薄っぺらい着物、お前さては河岸見世の鉄砲女郎か!?」

そう言いながら唖然としている私を、ガタイのいい着物を着た男は取り押さえた。

「ちょ!!何するんですか!?離してください!!警察に通報しますよ!?」

「あ?けいさつ?なんだそりゃ」

「こいつ、よくわからない事言ってるな。頭にカサが回っちまったんでねぇの?」

警察を知らないの?と聞こうとした時 この人たちの服が着物だということが気になってしまった。

「あ、あの!その服!なにかの撮影ですか!?」

「あぁ!?おめぇやっぱおかしい奴だな!」
「どこの、見世の女郎だ!」

そこで私はここが少なくとも平成ではない事に気がついた。
____タイムスリップ____
そんなことは一切信じていなかったが、もう信じざるはおえないだろう。

「どこの見世の女郎だ!?」
「答えられねぇのかぁ!?あぁん!?」

あまりの恐怖に意識が薄れていく。
その時だった。

「ちょいと、お兄さん方 たかが河岸見世の女郎ごときに。まぁ、ここはわっちの顔に免じてその女郎を離してやっておくんなんし」

男達は、「姐さん!!」と驚いた素振りを見せ、すぐに私を離した。

驚いた。

素直に男達が私を解放した事にではなく、目の前にいる女性がとてつもなく美人だったからだ。

月の光に照らされた肌が宝石のように輝いている。

「あ、あの!助けていただきありがとうございます!!」

そう言った私に、女性は

「おめぇさん、どこの女郎かえ?」

「…あの、私ここがどこだか全然わからなくて、ついさっきまで駅まで走ってたのに急に意識を失って、気づいたらここにいて…」

「おめぇさん、名は?

「千春…天野千春って言います!」

「そうかえ、千春 ちょいとここで待ってておくんなんし」

「は、はい」

そう言って、女性は行ってしまった。

5分くらいして 女性はまた私の所に戻ってきた。

「おめぇさんのその薄っぺらい着物では、目立ちすぎてしまう。わっちのこの着物を付けなされ。そして、ここでのおめぇさんの名は「ちぐさ」だ」

そう言って渡された着物は、ユリの花の柄の美しい着物だった。

「あの、これはどうやって着るんですか?」

女性は少し驚いた顔をしたが、すぐに

「そのおめぇさんが着てる着物を脱ぎな。わっちが着させてあげる。それと、わっちの事は姐さんと呼びな。」

「姐さん、、」

「ふふふ、上出来」

「姐さん、名前はなんていうんですか?」

「わっちの名は、夕顔。ここじゃ知らねぇ奴はいない、吉原イチの花魁サ」

ここから、私の吉原での生活は始まった。