開け放たれた窓から、爽やかな風が桜の花びらを乗せて流れてくる。

白いカーテンが微風と合わせて小さく踊り、それにつられるようにノートがパラパラとめくられる。


薄いノートブックの紙の下端に描き進めた絵が、

まるで本当に生きているかのように動いてゆく。


それは誰か知らない小さな男の子が、


桜の花びらを追いかけている絵。


きっとその子は笑っているんだろうなって想像して、口角を少しだけあげる。


小さい頃からずっと共に生きてきた、空想の世界の男の子は、空白のページにめくられて消える。


わたしは鉛筆を握り直すと、続きをどうしようかと思考を巡らせる。

そんな時、一枚の桜の花びらが教室に舞い込んできた。

その桜は生徒の頭上を優雅に泳いで行く。

まるで静止画みたいに鮮明に見えるその花びらを、わたしは無意識に視線で追っていた。


するとそれは、一人の生徒の髪の毛の上に舞い降りた。

窓から差し込む光によって茶色く見えるその髪の持ち主は…


「うわっ!びびった!」


授業中に大きな声で叫んだかと思えば、ガタッと椅子を引いて急に立ち上がるものだから、教室中笑いに包まれる。


「なんだ!桜じゃねーか!」


「おい、結城!」


先生の雷が落ちるものの、その子はピクリともしないでけらけら笑っている。


かと思えばいきなり真面目な表情になったから、みんなは何事だろうかと身を乗り出す。


「なんかこの桜…おしりみてえ。」


その発言に生徒たちも思わずまた噴き出す。