「星矢くんって彼女出来たらしいよ」
教室に忘れ物を取りに戻って来たはずの私の足が、教室の前でぴたりと立ち止まった。
どうやらクラスメイト2人は、並木 星矢(なみき せいや)の話をしているようだった。
「それって白石さんのこと?」
「ううん、八乙女華恋だってよ」
え?そんなの星矢から聞いてない。
頭の中は真っ白になり、彼女たちが何を言ってるのかすらよく分からなくなっていた。
「星矢くんと白石さんって幼なじみだしその2人が付き合うと思ってた」
「ねーっ!でもやっぱ男わみんな八乙女華恋みたいなのが好きなんだね〜」
わたしもずっとそう思ってた。
星矢も私と同じ気持ちだって、いつか告白してくれるんだって…
そう思い込んでた自分が恥ずかしい。
顔が真っ赤になり、涙目になった自分の顔をなんとか必死で笑顔を作った。
そして今来たばかりのように小走りで笑顔のまま教室に入った。
「忘れ物しちゃった〜」
「「えっ、白石さん!」」
クラスメイトの2人が同時に声が重なり、気まずそうにしてるのわすぐに分かった。
きっと2人はさっきの話を聞かれてたって思ってるんだろうな。
「ん、どーしたの?てか2人とも放課後の教室で何してたの〜?」
まるで “何も知らない” と言ってるような嘘をついた。
すると2人はホッとしたような顔をして「ちょっとね〜」と返してきた。
「じゃあ私はもう帰るね、また明日ね」
2人と話を終えると、忘れ物のペンケースをさっと取り出した。
そして “ただ忘れ物を取りに戻っただけ” を偽ったまま教室から出て行った。