「おはよう」

クリスマスの翌日の朝、高成が朝から仕事だから早めにホテルを出て、朝のコーヒーをたてていたら一旦帰ったはずの涼介が帰って来た。

「昨日はありがとうね」
「お~。楽しめたか?」
「おかげさまで。千秋、迷惑かけんかった?」
「俺がゲームしてたら膝の上で寝てたから、あんま世話してない」
「そうなん?それはよかった。ほんまありがとう」

ダイビングテーブルではなく、リビングのソファに座る涼介に合わせてコーヒーを置く。
朝はミルクと砂糖がいっぱいの甘めのホットコーヒーが定番。

「礼はフレンチトーストでええよ」
「はいはい、甘いヤツな」
「ようわかってるやん。で、ナリは?」
「京平と事務所行くって言うてたけど」
「そうなん?仕事人間やな」
「そうなん?って涼介は行かんでええの?」
「さぁ?」
「さぁ?さぁってなに?」
「うるさい。俺が行かんくてもナリと京が動いてりゃ機能すんの」

テレビをつけて、自分の好きなチャンネルにまわしてコーヒーを飲む。
オープンキッチンから見える横顔は少し眠そう。
どうせゲームで夜更かししてたんやろう。

それにしても涼介がレコーディング以外で仕事してる姿はこの長い付き合いでもほとんど知らん。
スケジュールを把握してるわけじゃないから知らんのが普通やろうけど、ほんまに仕事してるんやろうか。

「自分のバンドやのに他力本願って言うか」
「他力本願じゃなくて俺が動くと足手まといになるから動かんように、と...」
「電話?」
「あー、声出すなよ?」
「はいはーい」

こんな朝から電話なんてきっと仕事に決まってる。
呼び出されて仕事しに行くんやろう。

それにしても、なんか昨日の幸せが今日も引っ張ってて今日も幸せが止まらない。
にやにやする顔をおさえながら、高成の最新シングルのバラードを口ずさんじゃう。

「はい?お~、どした?」

どした?なんて普段言わんのにちょっと挙動不審で何故かカチカチと音量を上げはじめる。
はっきりと言葉が聞こえるわけじゃないけど耳から離して会話してるところを見ると普通に音量上げすぎな気がする。
相手が誰かわからんけど、電話なんやから聞かれてまずいことだってあるやろうに。

「すっごい声漏れてるけど、大丈夫?」

そう思ったから声掛けたのに。

「?!」
「なによ?」
「(バカ!喋んな!)」

いきなり焦った顔して口パクとか、かなり珍しい。
女の子と電話でもしてんのかな、と傍を離れようとしたら掴まれた腕。

「はい?え?いや、その...」

次はどもり始める。
がっつり腕も掴まれて全然離してくれへん。よほどまずいことがあったんやと思って「どうしたん?」と聞いてみたら「自分で確認せぇ」と携帯を渡された。

いや、ムリやろ!!と受け取り拒否したら「出ん方がヤバいで」って言うから仕方なく受け取った。

渡すってことはあたしも知ってる人。
出ん方がヤバいってことは間違いなく怒られるやつ。
思いつくのはヤツしかおらん。
昔のことをネチネチといまだに出してくる京平に違いない。

「も~!もしもし?」
《コーヒーでも出して長居させるつもり?》
「・・・高成?え?えぇ?!」
《二人して声が上擦ってんだけど》
「え?そう?」

京平やと思って怒られるの覚悟で出たらまさかの高成で変にテンパってリビングをうろうろしてしまう。
別にやましい事なんで微塵もないし、涼介が朝から家にいるのはいつものこと。
なのに、変に動揺してるからか「アホや…」と涼介に言われる。

《ごまかそうとしてもムダ。もしかして懲りてない?》
「…は?!え、は?!なに?!」
《焦りすぎだから》
「涼介に代わる!!!はい!」

もうダメだ!何言ってもこれは勝てない!と判断して涼介に携帯を強引に返した。

昨日のことを言うなんて卑怯やん。
これも毎度の高成の手やってわかってるけど恥ずかしいやらなんやらで困る。