首を反らして背中を見る。
 帯、歪みなし。淡いグリーンの帯は裏側がチェックになっていて可愛い。その柄がちらっと見える所がお洒落だ。紺地に淡い水色やピンクの撫子が散る浴衣とこの帯はお姉ちゃんからのお下がりだけど、大人っぽくて気に入ってる。
 手が攣りそうになりながら頑張って編み込んだ髪は、スプレーでしっかり固めたので今の所崩れたりはしてない。

 前を向いて、顔のチェック。
 顔面もテカリはなし。普段はそんなにメイクしてないけど、今日はしっかり睫毛を上げてマスカラを塗った。リップもいつもの色付きスティックだけじゃなくて、リップグロスを上に重ねてる。
 耳元にはくーこと色違いで買った、小さな青い石がチェーンの先で揺れるイヤリング。

 ────よし。

 時間には少し早いけど、今日は自転車乗れないし。
 携帯や財布なんかを詰めた巾着バッグを持って、着崩れないように気をつけながら下駄を履く。今から暗くなるからこんな所まで見えるか分からないけど、キラッキラのラメを詰め込んだピンクの足の爪。手の方はあんまり気合を入れるのが気恥ずかしくて、ほんのりピンクがかったほぼ透明なネイルだ。

「行ってきまーす」

 「行ってらっしゃい、あんまり遅くなり過ぎない様にね」というお母さんの声をBGMに玄関のドアを開けると、途端にムワッと暑い空気と蝉の賑やかな鳴き声が押し寄せてくる。お盆も過ぎたのに、そしてもう夕方だって言うのに、残暑の日差しはまだまだ厳しい。
 正直、三十度を越える気温の中で浴衣は暑い。普段着の方が絶対涼しい。それでも今日は、どうしても浴衣が着たかった。

 『いいよなー、浴衣』って。『俺は古風な感じの柄がいい』って。そう言ってたのをたまたま聞いてしまったから。絶対会えるなんて保証もないけど、もし会えた時に後悔したくないから。
 君の目に映る私が、少しでも可愛くいられますように。