どうしよう。


すっかり遅くなっちゃった。


「はぁはぁ」


駅から自宅まで歩いて十分のところを、猛ダッシュで五分縮めることができた。


閑静な住宅街の一軒家。


母子家庭の母娘三人が暮らすには、十分すぎるほど大きな家だ。


レンガ調の外壁に備え付けられたインターホンと表札。


大きな門をくぐって十段ほどの階段を登ると、洋風の建物が姿をあらわす。


肩で息をしながら、額に浮かんだ汗を拭った。


リビングに電気がついているのを見て、心がズッシリ重くなっていくのを感じる。


なにも言われなきゃいいけど……。


そんなことを思いながら、玄関のドアを開けて家に入った。


「遅かったわね。なにしてたの?」


案の定、リビングに顔を出した私にお母さんが訊ねた。


怒ってはいないみたいだけど、探るような目で私を見るお母さん。


「えっと……友達と一緒にいて、遅くなっちゃった」


えへっと愛想笑いを浮かべると、お母さんは真顔で大きなため息を吐いた。


「もうすぐ期末テストなのよ?友達といる時間なんて必要ないでしょ。学生の本業は勉強なの。咲花はお姉ちゃんと違って元がよくないんだから、必死に努力しないといい大学に行けないのよ」


キビキビとしたお母さんの声が胸に刺さる。