ケータイ小説 野いちご

【完】溺れるほど、愛しくて。

気づいて





《萩花side》



「では、教科書110ページを開いてください」



先生が指示する声が聞こえてくる。



「葛城(かつらぎ)さん。
葛城 萩花(しゅうか)さん。聞いてますか?」



少ししてから先生があたしの名前を呼ぶことが耳に届く。


パッと視線をあげれば先生は呆れたような表情であたしを見ていた。



「ちゃんと、授業は聞きなさい」



それだけ言うと何も無かったかのように授業に戻っていった。


今日も、この薄汚い世界に紛れてあたしは一日を過ごす。


嘘や嫉妬、憎しみで溢れかえっているこの世界からあたしが抜け出すことは許されない。


完璧なセキュリティ。
目を光らせる監視たち。


あたしはもう逃げられない。
ずっと、息の詰まるような生活を続けて死んでいく。


そう、ずっと思っていたんだ。
彼に出会うまでは───…



「お嬢さま、今日はお車でお帰りになってください」


「遠慮しとく。
今日も歩いて帰りたい気分なの」


「お、お嬢さま…!」



いつものように執事の狭間さん(はざま)に告げて迎の車から早く逃げたくて自然と歩くペースも速くなる。


ごめん…狭間さん。


狭間さんがあたしのせいでお母さんたちに怒られているのもしっているけど、あたしにも自由が欲しいの。




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