翌日からも気持ちは重く、課長のハンカチを返さなければいけないのに、それすらも出来ないまま日数だけが過ぎて行く。

課長は私に奥さんの話をした後も何ら変わりのない態度で仕事をこなしていて、時々始業ギリで到着した日には、髪の毛に寝癖が付いてるままだったりする。


それを見ると、これまでは奥さんがもっとしっかり世話をしてやってよ…と思ってたけど、いないと知った今は、返って忍びなくなる。


私が側にいたら課長にあんな寝癖を付けたまま仕事になんて行かせない。
側にいたら始業ギリでオフィスに着くようなことはさせない。


自分が側にいれたら…の思いが強くなっていく一方で、それが出来ないと思い知ると悲しくなる。


課長の可愛いお弁当の噂を聞く度に胸が詰まりそうにもなって、普段から喜怒哀楽の出難い顔が、より一層硬くなっていく。


余程思い詰めた顔をして歩いてたのだろう。
営業部の前を社用で通り抜けた時、部署から出て来た人に呼び止められてしまった。



「横山!」


張りのある大きな声に驚いて立ち止まり、胸に抱え込むようにして持っていたファイルを持つ手にギュッと力が入った。