泣き腫らした目を伏せるようにして午後の仕事をこなし、何も考えられない頭を項垂れながら終業後、更衣室へと赴く。

力も入らない掌でドアノブをぎゅっと握って開ければ、私の顔を見つけるなり、走って来る人がいる。


「葉月!」


大人らしい落ち着いた声にビクリとして目を向けると、相手は私の顔を見てあんぐりと口を開け、それから自分の左腕を右腕に絡ませて、そそくさ…とばかりにロッカールームの端へと連れて行く。



「あんた、その顔は何?」


自分の目を指差して訊ねる。
私はその質問に答えず、その人の名前を呼びながら涙した。



「相川さん……」


昼休みに聞いた課長の奥さんの話を思い出してまた涙が振り返す。
只事ではないと判断したらしい彼女は、とにかく此処では泣かずに着替えなさい、と諭した。


グスンと鼻水を吸ってベストのポケットからハンカチを取り出しながら頷くと、グリーンのチェックハンカチは直ぐに男性物だと気づかれ、囁くように「誰の?」と問われる。


一瞬だけしまった…と思いつつ、言い出しづらくて唇を噛むと、今はいいから後から教えてね…と先延ばしにされた。