横山葉月が部屋を出た後、リビングに戻ると真央はまだ悄気ていた。
小さな背中に近付き、「真央」と呼んだが顔も上げてくれない。


困ったな…と息を吐きながらテーブルの上を見て、三人で作ったギョーザの残りを齧った。


「ひろ……」


膝を抱え込んだ体勢のままでいる娘が呼び掛ける。
モグモグと口を動かしながら膝を折り、目線の高さを合わせた。


「ママのお話、聞かせて」


亡くなった妻の話を最近よく聞きたがる。
物心も付かないうちにこの世を去ったのだから、無性に会いたくなったりもするのだろう。


「いいよ。でも、初めての人に今日みたいな事は言わないと約束してからな」


小指を立てると渋々と小さな小指を絡めてくる。
約束したところで破られるのだが、躾としては一時的に有効だ。


その後で膝の上に座らせた。
母に言わせると、これだから俺は真央に見くびられるらしい。



「真央のママは綺麗な人だったよ。しっかり者で働き者だった。病気が分かってからも病人らしくなくて、パパはいつも不安だったな」