やさしい人。

自分を犠牲にしてまで、馬鹿みたいに最後まで。

目の奥がつんとして、走っているうちに熱くなった。

嘘じゃないって、誰より私が信じてた。
だって、きっと、あの優しいぬくもりは、嘘では手に入らないものだった。
だからこそ、あたたかかった。

「……」
思いを背負うことは、責任を負うことだ。

一度承諾した願いを叶えるために努力しないのは放棄することだから、葵は決して走るのをやめない。

辛くなっても、寒くても、凍えそうで苦しくても。

義務がある。
想いがある。
背負った分だけ、大切になる。

だから。

「……っ、はぁ…っ」

元々体力のない葵はすぐに息切れし始めたが、懸命に足を引っ張るように走った。