プロローグとして────

「さよなら、」
あの日彼女はそう言った。泣き虫で、感情の表現が単純な喜怒哀楽を隠せない彼女が、いつに無く真面目で、凛とした表情で告げた。
その顔に感情はなかったように思える。1年と9ヶ月、彼女と恋人として時間をともにした。彼女が十八歳の春から、二十歳の成人式を迎える直前の今まで。その言葉に頷かなかった。正確には頷けなかった。その言葉を理解することだけで埋め尽くされて、ただ無言で、彼女の悴んだ手のひらを握っていた。


side ren