年が明け、また春がやって来た。春の一大イベントと言えば、春兄の誕生日。私はひっそりとプレゼントを用意していた。


「ふふふっ。絶対びっくりするだろうな〜」


女性トイレの洗面台の鏡に映る自分の顔が崩れすぎていて気持ち悪い。


私たちは今日、最近オープンした大型ショッピングモールに来ている。


デートだから当たり前のように車を出してくれようとしたけれど、サプライズの下準備のため慣れない嘘をついてごまかし、現地集合にした。



つい先ほど春兄と落ち合い今こうしてお手洗いにいるのだが、プレゼントを隠した"ある場所"に早く春兄を連れて行きたくてうずうずしている。



トイレを出ると、壁に寄りかかりながら携帯をいじっている春兄が目に入る。


「春兄お待たせ!」


「おう」


並んで歩き出し、ちょっと早めのお昼を食べに行くためレストラン街に入る。いつも私が食べたいものを優先してくれるけれど、今日ばかりは春兄の希望を聞きたい。


「春兄、今日は何の気分?」


春兄の顔を覗き込む。よほど私の顔がおかしかったのか、ぷっと声を漏らす。


「そんな目をキラキラさせられたらな。藍の食べたいものでいいよ」


あ、ほら、まただ。今日は春兄が食べたいものを優先するんだ!


「だーめ!春兄優先!はいどーぞ!」


「どーぞって…うーん、そうだな」






春兄の食べたいもの、それはステーキだった。鉄板で自ら焼くスタイルで、初めての形式に戸惑いながらも肉を頬張る。


「ん〜!美味しい!!春兄のも美味しそう!」


「食べる?」


私の返事を聞くまでもなく自分の分厚いステーキにナイフを入れる。私は慌てて制した。


「いやいいよ!春兄の大事なお肉だもん!」


「美味しいものは共有したいから」


そう言って私のお皿に載せる。その瞬間肉汁がじわっとお皿に流れ出る。あぁ、美味しそう。


「じゃあ、お言葉に甘えて…あ、私のも食べて!」


同じように自分の肉を切り分けて春兄のお皿に載せた。