自分の部屋に入り、春兄が家に着いたであろう時間まで待ってから、思い切って電話をかけてみた。


春兄に謝りたい。出てくれるよね?


春兄が私からの連絡を無視したことは一度もない。その時に電話に出られなくても、後で必ず折り返しの連絡をくれる。


ドキドキする胸を押さえながらコール音が止むのを待つが、それが途切れることはなかった。


「…出ないなぁ」


まだ家に着いていないのかな?


携帯の電源切れちゃったのかな?



仕方なく電話は諦め、メッセージを送ることにした。



【春兄、さっきはごめんね?
春兄のこと全く考えないで、自分の気持ちばかり押し付けてた。

本当にごめんなさい】



メッセージを打っていて、頭をよぎった春兄の言葉。




『お前のそういう我儘なところに疲れたんだ』



あれはミナミさんに向けられた言葉だったけれど、今のこの状況、自分の考えを無理やり春兄に押し付けてしまったこの状況に、嫌でも自分と重ねてしまう。


絶対春兄に呆れられた。


私…嫌われちゃったのかな?


目に薄い膜が張っていくのが分かる。


そしてだんだんと視界がぼやけ、遂に涙が溢れてきた。


春兄に嫌われたら、私はどうしたらいい?



ずっと頼りにして来たお兄ちゃんみたいな存在。


これから先も変わることがないだろう関係だと思っていた。


私のせいで、その関係も終わっちゃうのかな?




「そんなの…嫌だよ…」


大切なモノを失ってしまった気がした。


心にポッカリと穴が空き、それを埋めるかのように必死に春兄との楽しい記憶だけを呼び起こす。


結局、私が送ったメッセージに春兄からの返事がないまま、その日は終わった。