chapter6 後悔と思慕の夜想曲(Nocturne)


遠慮がちにノックされる扉。フェリチタが応えないでいると、そっと開いた。

「フェリチタ様……レイオウル様が、お会いしたいと……」

ルウリエが泣きそうな声で言う。無言で目を逸らすフェリチタに近づいてきて、強引に手を握った。

「申し訳ありません。事情はレイオウル様に伺ってしまいました。誰にも会いたくない気持ちはわかります。私に会いたくないというのも当然の事だと思います。ですから心配で心配で仕方ありませんでしたけど、フェリチタ様のお部屋に伺うのを我慢していました。
でも、フェリチタ様……!もう前日の夜なのですよ!レイオウル様は、明日戦場へ向かわれるのですよ……っ!?」

明日?ぼんやりとフェリチタは反芻する。

(そっか、もう……明日なんだ)

行かないで。お願いだから、戦わないで。

本当は今すぐ飛びついて抱き締めて喚いて、何をしたって引き留めたいのに、それをする資格は無いと思ってしまうから。

……会いたい。顔が見たい。触れたい。声が聞きたい。

そんな思いを打ち消すようにフェリチタは問うた。

「どうして私に会いたいの?」

「どうして、とは……」

「……じゃあ、『誰に会いたいの』?」

「えっ?」

ルウリエが虚をつかれたように目を瞬かせる。

「その『フェリチタ』って誰なの?王城に召された、花屋の『フェリチタ』。私じゃない。殿下が会いたいのは、その子なんでしょ!」

自分が支離滅裂な事を言っている自覚はあった。でも自分が知らないもう1人の『フェリチタ』がいるとしか思えなくて。ルウリエに問うてもどうにもならないのもわかっていた。それでも声は零れ続けて。

ただ抱き締めてくれたルウリエの胸に、フェリチタは顔を埋めた。

「……ごめんなさい、ルウ、ごめんなさい、あなたに当たっちゃった。ごめんなさい……本当に、何が何だかわからなくて……」

幼子をあやす様に頭を撫でていたルウリエが、未だ逡巡するようにゆっくりと声を低くして呟く。

「……お会いさせるべきか、ずっと悩んでいたのですが……実は……もう1人フェリチタ様にお会いしたいと仰っている方が……」