清々しい気分で、今朝、青葉高校の制服に腕を通した。





なんでだろう、

『悲しい』とか

『寂しい』とか、



『卒業』ってそんな思いになるのだと思っていた。






だけど、



今の俺の心は




『やりきった』




まるで、大会終わりのあの爽快感を味わっているような気分になった。








まだ寒さが残る今日、3月1日。



俺達は学び舎を卒業する―――――。







「いってきまーーす」


「あ!翼!!」


玄関で声を出すと母さんが出てきた。








「これ、涼々ちゃんに……。」





手渡されたのは手帳みたいな、1冊のアルバム本だった。






「なんだよ、これ。」



「なんでもいいでしょ?せっかく長年お世話になったんだし、これくらいしなくちゃ。」






母さんは俺の手の中にアルバム本を押し付け、早く行きなさいというように家を出された。






まだ少し肌寒いけど、今日はよく晴れていて気持ちがいい。








「―――――涼々。」




少し歩けば涼々の家は見える。



涼々は隣の家の塀に体をあずけながら下を向いていた。






同じ深緑色のブレザーにグレーのチェックのスカートを、




相変わらず短く履いている涼々に声をかけるとこっちを見て微笑んだ。





「おはよ、翼。」







この道でこうやって挨拶を交わすのも今日で最後になる。


「行こーか。」

「うん。」


こうやって手を繋いで歩くのも最後になる。







「なにそれ?」


電車に乗ったあたりで涼々が俺が右手に持つものをなにか聞いてきた。




「あぁ、母さんから。お世話になったからって」

「えー?ほんと?嬉しいんだけど」



手渡すと表紙を開いて…………、





閉じた。





「見ねーのかよ」

「だって、翼のお母さんだよ?翼がいないところで見なきゃね。」





涼々は俺の母さんとも仲良くて、よくわかってるらしい。



気分よさげに鼻歌を歌い出す。




「機嫌いいな、」


「翼こそ。」


「俺は…、」


「やりきった、って顔してるよ?」





バレバレらしかった。