人間とはなんて醜くて愚かなのだろう。

綺麗事をいくら並べても、心の奥では
自分の保身だけ考え他者を蹴落すことばかり。
少し歯車がずれるだけで簡単に崩れ、欲望丸出しで醜態を晒しているではないか。


あっちで暴れる太った中年男性をみてみろ。


「俺は悪くない!アイツが言う事聞かなかったからだ!なぜ俺がこんなめに!」


そう怒り狂い暴れてる様は、
とてもじゃないが元大手企業の重役とは思えぬ
形相だ。
高級スーツがただの血まみれな布切れに見えるではないか。



「なんなのよ!!私が何したっていうのよ!!
親の私が何しようと自由でしょ!!」


その横ではまだ20代前半であろう女が、部下達の静止を押し切ってわたしの元へ殴りかかろうとしている。

ブランド品に身を固めた派手な格好のわりに、
犯行に及んだ痕跡は見受けられんな。

自らの手を染めず代理を使ってココにきたと
いうわけか…。


なぜ神は人間など作り上げたのか。
どいつとこいつも屑ばかり。
欲に溺れた腐った人間なんぞ、本当に
必要立ったのだろうか。
我々裁キ者としては実に理解出来ない事である。


「失礼シマス。およびでしょうカ?」


背後に現れたその男は戸惑っているのだろう。
額から冷や汗を垂らし落ち着かぬ表情で
わたしの呼び出しに応じてきた。

なぜ自分が呼ばれたのか分かっていないらしく
やや怯えた目でこちらを見ている。



見た目からして、人間年齢でいうと20代半ば
あたりだろうか。
経験も浅く、深入りせず任を遂行できたそうだな。
今回直属の部下ではなく、あえてこの男を選んで正解だったようだ。


「え、マジでこの人間でやるんですカ?」


まだキャリアが浅いとはいえ、言葉遣いが
目上の者に対して正しく使えていないのは
気にかかるが。

必要な書類と道具を渡し、
今回の任務についての説明を終える。


「分かリました…今回の任務、成功したら
俺もぜひ裁キ者に昇進させてくださいネ」


そういって男は灰色の翼を広げ、
一瞬で消えるかのごとく飛び立っていった。


さて面白くなってきた。
果たしてこの任がどちらに転がるか。

地獄の 本来のカタチを。
今こそ確実なものに成し遂げよう。

テーブルに置いていたワイングラスを片手に
わたしは決意を新たに固めるのであった。




男が飛び立って言ったあとの部屋の中は
かすかに甘いユリの香りが漂っていた。


...