「ハルっ!早くしないと…!

「いいから!俺に構わず先に行けっ…!

「それはできないよ!!だってお母さんに頼まれたもん!

「チッ母さんめ…

私、佐藤桜はただいま絶賛逃亡中…

何てことはなくて、ただこの男、ハルを連れて学校へ行くところだ。

あと一回遅刻したら停学だってのに今朝も呑気に髪なんかセットして気付いたら電車発車まであと10分

いつもは私は既に学校についているのだが、今日はハルをちゃんと連れてけとお母さんに言われてしまった

うちから駅までは徒歩15分なので走ればギリギリ間に合う。

私はまだ鏡を見たそうにしているハルの手を取り、家を出た。

「ハルもっとシャキシャキ走れ!!

「ええー。別にいいじゃん少しくらい遅れても

「よくないから走ってんのよー!!

私の絶叫が住宅地に響き渡り、青信号を渡ろうとした時。

キキィ!!

大型トラックが突っ込んできた。

「なっ…

「桜っ!!

ハルが私を抱きしめるのがわかった。

うちらは違反してないよね?!このクソトラック!!

慰謝料ぶんどってやる!

そこで私の意識は途切れた。


「…ル! ……きて!ハ…!!

んん?

桜の声?

「起きてっ!ハルっ!!

「はっ!!

俺は気がついて上半身を思いっきりあげた。

すると

ごちん!!

「いったー!!このバカハル!!

桜がおでこを抑えうずくまっていた。

あれ、俺らトラックにひかれて…

ひかれて!!

「桜っ!!ケガは?!

俺は桜の肩を掴み全身を見渡す。

「それがなんともないの…あんたのせいでおでこは痛いけどね

ほっ…

よかった。

安堵のため息を吐くと、

「それより、ここ様子がおかしいんだけど

桜の言葉に周りを見渡すと、なんとそこは河原のような場所。

そこまではまだ理解の範囲なのだが、土手の向こうに見える街は俺が知っている景色とは随分違っていた。

「ここ、どこだ…?

「ね…まるでタイムスリップしたみたいじゃない?

タイムスリップ

まさにそれだ。

目の前に広がっているのは、木造の低い町家が並んでいる景色。

遠目に見える人達も、現代とはどこか違った感じがする

「とりあえず、行ってみる?

桜が聞いてきた。

「そうだね。行ってみようか

今度は俺が桜の手を取り、歩き出す。

「うわお。ハルが男らしいことしてる…

「どういう意味だよ

あははっと笑う桜。

つられてこちらも笑顔になる。

「あーなんかハルがいてよかった!
もし一人でこんな状況なってたら耐えられなかったよ

「やっと俺の良さがわかったか。これからは俺を敬え!

「そうなるから普段あんな扱いなのよ

他愛もない話をしながら街へ向かうと、町の人々はやはり現代とは違っていた

「ハル…もしかしたら私目おかしくなったかもしれない
袴に髷に刀が見えるよ

「OK異常なしだ。俺にもそう見える

「ハルと一緒の時点で異常ありだ。

「なんなのお前ほんとなんなの。俺傷付いてるの気付いてる?

「おっ、今の傷付いてるの気付いてる?ってなんか語感がいいね

「こりゃ気付いてないな

はぁとため息を零すと、

「きゃぁああああ!!!

悲鳴が聞こえた。

「おい桜。今更そんな女みたいな悲鳴あげても無駄だぞ。失ったものは取り戻せねえ

「失ってないし私でもないわ。ほら前のアレじゃない?

そう言われ前をよく見ると、刀を抜いた侍に切られそうな女の人。

ちょ、やばくねぇか?!

「やばいのはわかってるわよ

は?

こいつ、俺の心の声に反応した?

「心の声じゃなく声に出てるよ?

いや、嘘だ俺声出してないもん
なんなのこの女。ついに超人パワー身に付けた?

「聞こえてるよ?

『はぁ。こいつ馬鹿すぎて救いようがないわ。死んでも治んないね

「おい桜!!俺は馬鹿じゃねえ!!

「は?何言ってるの?私そんなこと言ってないよ?思いはしたけど

「え?でもバッチリ聞こえてたよ?

顔を見合わせ一瞬の沈黙の後

「……ねぇハル。心の中で何か喋ってみて?

「え?あぁ、いいけど…

いつかはピーマン食べれるようになりたい

「…あんた いつかはピーマン食べれるようになりたいって言ったでしょ

「なんでわかんの?!すげえ!!
じゃあじゃあこれは?!

トマトは別に食べれなくてもいい

「はぁ?!トマトこそ食べれるようになりなさいよ!

「うわぁ!すげえ!!!もしかして俺らテレパシー使えるんじゃね?!

「そうみたいだねぇ…

「やべえよやべえよ!やっと俺らの絆が証明されたな!

「そういう証明ならいらないわぁ。