どうせ結婚するのなら、誰の命令でもなく、自分の意思で相手を選びたい。
身分なんて関係なく、素敵な男の人と幸せになりたい。



ずっとずっとそう思ってきた。



なのにーーーーーーーー



「悪いことは言わねぇよ。そこらの豚の相手をするくらいなら、俺の虜になれば良いんじゃねえの。べ、別にお前のことが好きなんじゃねぇからなっ、勘違いすんじゃねぇぞ!」



あたしのココロをそんな傲岸不遜でツンデレに奪った男は、あたしより少し背の低い男の人。
あたしを荊棘に護られた屋敷に囲うのに、自分のものではないと突き放す。
けれど、あたしが森を1歩でも出ようものなら、怒鳴り散らす彼。



あたしをまっすぐに見据えるその瞳も、あたしを抱きしめるその腕の温度も知らない人のそれのようで、ときどき怖くなるけれど、それでもあたしは彼が好きなの。



「お前は何も心配しねぇでのほほんと生きてりゃ良いの。お前のことは俺がま、まもってやっても良いんだぜ。お前より背は低いけど一応男だしな。お前はそこで笑ってろ、な?」




ツンデレなくせに、ハイと言わせようとする、その答えを促す最後の「な?」はとてつもなく甘ったるい素敵なテノール。
言っているセリフと真っ赤な顔で狼狽える彼の態度はまるで噛み合っていないけれども、そんなことどうでもよくなってしまう。



「荊棘の森のお姫様、素敵な物語だろ」
「そうね、茨姫みたい」
「おおお俺は、お前を呪いの眠りにつかせるつもりはねぇかんな!」
「何どもってんの、ちゃんと話なさいよ馬鹿」



荊棘のアーチが出迎える、小さな森の小さなお家。
麓の村では毎日楽しそうなネオンが光っているけれど、ここはゆったりと流れる時間と宵の月がとても綺麗なの。
毒を吐いて笑うあたしと、ツンデレな彼。



いつかこのゆったりとした森で、彼と結婚式を挙げるのがあたしの夢なのに、彼は解っているのかいないのか、いつもツンデレにあたしを躱す。



「……今にあたしを好きだって言わせてみせるわ、覚悟なさい、六花」
「ん?なんか言ったか林檎」
「いいえ、何も。早く家に入るわよ。もう、風邪ひくじゃない!」




どうか彼が、あたしに振り向いてくれますように。
どうか彼は、あの人に見つかりませんように。



いつかあの人に見つかってしまうその日まで、彼を全力で護って、彼を全力で愛する。
例え彼があたしに振り向いてくれなかったとしても、彼が幸せになれるよう全力で尽くす。



それがあたしに出来る、最初で最後の恩返しだから。