「白坂さん、終電乗り遅れますよ」


と親切なマスターの声が聞こえた。


俺はカウンターにつっぷして夢を見ていた。


「ああ。いつも悪いね」


と俺は上体を起こす。


「彼女は?」


と聞くと、


「とっくに帰りましたよ」


とマスターは静かに答える。


「今度、彼女の名前聞いてくれないかな」


と俺は言った。


「ご自分で聞いた方がいいのでは?」


とマスターは微笑む。


「それが、教えてくれないんだ」


と俺は苦笑した。


「そうですか。では今度来たら伺ってみますよ」


とマスターは答えた。


「ありがとう。また来るよ」


と俺はバーを出た。



夜風に当たって俺の酔いは少し覚める。


彼女の白い肌。



電車に乗る頃にはその感触も消えていた。




END