* * . 【 八野 蜜季Side 】 . * *
「八野くんっ」
金曜日。寒い図書室で待っていたらはちみつ色の紙袋を持ったきみが来た。
寒かったのに篠原が俺を呼ぶたび身体中が熱くなる。
「おう。 篠原」
篠原の第一印象は『バカなやつ』だった。
べつに委員長とかじゃないのにノート集めたり、雑用頼まれたりして、自分の仕事じゃないのに断らずこなしていく。
『バカなんじゃないの?』と本気で思った。
あの雨の日も。人に傘を渡すなんてバカだと思った。
だけどそれ以上にすごいなって思った。
……助けたい、なんて柄じゃないけど思ったりもした。
「へへへっ 今日ははちみつクッキーだよ!」
にこにこしながら紙袋の中からタッパを取り出して蓋をあけると入っているのはクッキー。
久しぶりの篠原の手作りが嬉しくてついついにやけそうになるのを我慢した。
「ありがとう。 いただきます」
ひとつとって口の中にいれる。
さくっとしててほんのり甘い味がする。
……俺の好きなはちみつだ。
「…うん。 美味しい」
率直な気持ちを伝えると照れたように頬をぽりぽりとかきはじめる。
ほんのり赤い頬。
…全部、全部がかわいい。
去年のバレンタインデーから全然しゃべったことがなかったからいま、この瞬間がとっても幸せ。
「八野くんっ」
「なに?」
「今日はねカイロと膝掛け2個持ってきたんだ! 貸してあげる!」
そう言ってまだ全然暖かいカイロと膝掛けを渡してきた篠原。
だけど俺は膝掛けは返した。
「膝掛けいらない?」
「……ひとつの膝掛けをわけっこするほうが暖かいじゃん」
そう言って椅子を篠原の方に近づけて座る。
肩同士、足同士が触れ合って抱きしめたい気持ちをどうにか我慢する。