「暑い...。むしろ熱い..。」

すでに聞き飽きた蝉の鳴き声を聞きながら、藤河(ふじかわ)高校2年4組、伊山 慎吾(いやま しんご)は息も絶え絶えに藤河高校名物、「地獄坂」を登る。

実に安直だ。
夏の日を照り返す、木陰などない約100mのアスファルト
斜度30度はあるであろう一本道
それ以外に形容できないので「地獄坂」なのだろう。

「未だに慣れねぇ...」
教室に着くが誰もいない。
何を隠そう世間はすでに夏休みなのだ。

じゃあ何故僕が地獄を味わってまで学校に来なければならないのか...

まあ、赤点を取ってしまった僕が悪いのかもしれないが、諸悪の根源は「数学」だ。

お察しの通り僕は数学が苦手なのだが、そもそも数学という科目を勉強する意味がわからない。

三角比?ベクトル?二次関数?
学校以外で彼らを目にしたことはないし今後目にする予定もない。

この世から数学がなくなっても僕は絶対に困らないし悲しくもない。
みんなもそう思うだろう?

「学校で課題なんてやってられんよ...」

ちなみに一応言っておくが、数学以外の教科も苦手だ。