「シュシュ、落としましたよ」

そう言われて振り向くと、大学時代の同級生がいた。
ちょっといい男だと思ったのは内緒だ。

「あ、志皇(しおう)」

ポカンと口を開けて話すと、志皇は笑った。
笑顔が眩しいってこういうことかな、と瞳は思う。

「あ、しおう、じゃねぇよ」

やさしいほほ笑みだった。

2人は朝の通勤の人混みをよけて、歩道わきのコンビニの軒下に落ち着いた。


「今から仕事か」
と、志皇こと水口志皇(みずくち しおう)が言う。

「そうだけど」
と、私、伊世乃瞳(いせの ひとみ)が返す。


スーツにナチュラルメイク姿を見て言われても、何てことない会話だ。
しかし、志皇はスーツを着ておらず、休日に着るようなラフな格好をしていた。


「仕事終わる頃、迎えに来るよ」

そう言って5年ぶりに会った友人は去っていった。


そして、私はシュシュを受け取りそびれた。