「やっぱり牧野君の代わりの男の子が欲しいわよねぇ」

 由里子さんが眉を寄せる。

「募集しよっか、織江ちゃん」

「そうですね・・・。張り紙してみましょうか」

 牧野君が辞めることはもう、皆んなが知っていた。
 果歩ちゃんの『なんでですか?!』攻撃は予想出来たものの、野乃ちゃんの元気が無いのは見ていて気を揉んでしまう。世の中は本当にままならない。

 バックヤードで3月の売り場方針を二人でミーティングしながら、来月からは牧野君が居ないという、あまり笑えない状況に頭を痛めている。

「ほんと・・・牧野君に居なくなられるのは痛手だけど、彼には彼の人生があるものねぇ」

 そうですね、と頷き返して。
 わたしも、今は素直にそう思うようになった。

「・・・織江ちゃんは相澤君とは上手くやれてる?」

 窺うように、由里子さんは上目遣いにこちらを見やる。

「おかげ様で」

 にっこり笑い返すと、心底安心したようにぱあっと明るい表情を開かせた。

「そっかぁ、ならいいの。相澤君が好い男なのは知ってるんだけど、何て言っても組の幹部だしね。忙しくて織江ちゃんをほったらかしにしてるんじゃないかって心配してたの」
 
「毎日は無理ですけど、わたしの休みに合わせて帰って来てくれますし、同居人もいるので」

「同居人?」

「渉さんの部下、っていうんですか? 同い年で、最近やっと仲良くなれました」

 クスクスと笑いが零れた。
 渉さんの前でわたしを結城と呼ぶのは、未だに心臓に悪いらしく。バツが悪そうな彼の顔を思い浮かべると、どうしても可笑しくて。

「相澤君が良く許してるわねぇ、同居なんて」

 信じ難いとでも言いたげな由里子さんに、もう一つオマケ。

「彼、女の人に興味ないので」

 目を丸くした彼女は「なるほどぉ」と、コクコク首を振って納得したのだった。