「詩月(しづき)、まだぁ?早くしないと遅れる・・・ってぇ・・・」

苛立ちも露わに振り返りながら「あぁ、そうだった」と項垂れる。

昨日ケンカした双子の姉は、珍しく朝早く出て行った。・・・と思う。私が起きたときには既に朝食も終わっていて、洗面所にいるとき玄関のドアが閉まる音がして、気付けば家には私だけになっていた。
気まずいのは私の方なのに、どうして詩月が先に出ていくかな・・・早起きだって苦手なくせに。
だいたい、ケンカというかは疑問だ。
私が一方的に怒っていただけ、かも。
不意に、唇を尖らせながら「ごめん」と言った詩月の顔が思い浮かんだ。

あれ?なんで怒っていたんだっけ?
その程度の些細なことだったのに、昨日の私はどうかしてた。

「あーぁ、もう今日、ガッコサボっちゃおうかなぁ・・・」

すとんと玄関に座り込んで、ポケットの携帯を時間を確認する。
あと5分以内に家を出ないといつもの電車には間に合わない。
もういいか。お母さんもいないし。
母は今週、単身赴任中の父の元へ行っている。月に一度の恒例行事。

よし、と決めて靴を脱ごうとしたとき、玄関ドアが叩かれた。

「おーい、行くぞー。開けろー。」

外で大声を上げるだけでは飽き足らず、ガチャガチャとドアノブを回している。
はぁ・・・先に連絡しておくべきだった。
私は再び項垂れながらドアを開けた。

「華月(はづき)、遅い。」

ドアの前で仁王立ちして私を見下ろす高身長の男は、私たち佐久間姉妹の幼なじみ、泉井拓真(わくいたくま)。一つ年上の彼は今日も絶賛不機嫌顔だ。

「拓真ぁ、連絡しなくて悪かったけど、詩月ならもう行ったし、私は今日休む。」

そう言いながら「じゃ、ごめん」とドアを閉めようとしたら、そのドアをガシッと掴まれ、拓真は私の腕を勢いよく引っ張った。