ケータイ小説 野いちご

そして俺は、君の笑顔に恋をする

やってみたい事






次の日。




黒瀬凪咲がマンションから出てくるのを待っていた工藤には、一つやろうと思っていたことがあった。


それは、黒瀬凪咲に話しかけるということ。


ただ一方的に話しかけるのでは駄目である。


目標は高く、『会話』だ




警護し始めて一ヶ月。


最初こそ「自分は君を警護する刑事です」と話しかけてみたが、「勝手にすれば」という一言を返されただけで会話も何もなく終わってしまった。


それからは一度も言葉を交わしていない。


だが、もう機は熟したはず。


今日こそ話しかけてみよう!


という訳なのである。




ガチャ


(……お!)


そうこうしていると、学生服を身につけ、いつも通り長く綺麗な黒髪を一つに結んだ黒瀬凪咲がマンションから出てきた。


相変わらず大人びてるなーなどと思いながら黒瀬凪咲と自然に距離を詰める。


彼女もさすがに工藤の存在に慣れたのか驚きもしない。



まだ登校や通勤には早い時刻の為人は居らず、通りを歩くのは黒瀬と工藤だけ。




「やあ、今日も早いね」


「………何」


「何って…世間話でも、と」




出だしはまずまず。


そんな風に思った自分が馬鹿だった。




「うざい」



「え゛」





僅か二言で話をぶった切られた工藤は、顔を引きつらせてその場で固まる。


よもや『会話』とは言えないレベルだ。


そんな彼を無視して、黒瀬凪咲はひとりスタスタと歩いていってしまう。



彼女の後姿を呆然と眺めながら工藤は思う。


黒瀬凪咲との『会話』への道は程遠いようだ。




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