深夜、蓮杖探偵事務所。

「……」

音もなく、そのドアの施錠が解除された。

解除したのは伊庭 瑛士。

伊庭の血筋は先祖代々、幕府や政府、皇室に刃向かう敵性人物を極秘裏に処理してきた、日本国の暗部と呼ばれる暗殺者の家系で、隠密の流れを汲む。

施錠を開錠するなど朝飯前だ。

そして、この蓮杖探偵事務所に侵入する理由は無論ただ1つ。

『目撃者』向井 環を口封じに殺害する事だった。

暗殺者特有の気配を殺す技術、『気殺(けさつ)』を駆使しつつ、事務所内へと足を踏み入れていく。