初めて出会ったのは、小学4年生の夏だった。


「瀬名敦史くん。東京の学校からこっちに引っ越してきたから、仙台は初めてらしいの。仲良くしてあげてね」


男子にも女子にも人気のある20代後半の山口先生が、綺麗な指先に持った白いチョークで黒板に『瀬名敦史』と漢字で大きく書いた文字を、私は今でも鮮明に覚えている。


敦史は、簡単に言えば垢抜けていた。
クラスの、いや学校の誰よりも洗練された印象を持っていて、言葉遣いや動作が綺麗で。
あとから聞いたらエスカレーター式の超有名な私立小学校から転入してきたのだと聞いて、なるほどな、と納得した。
彼はいわゆる『いいところのお坊ちゃま』だったのだ。


勉強も出来て、スポーツも出来て、人当たりも良くて、流行の物はいち早く取り入れていて、背も高くて。
そして、笑顔が素敵だった。


あの頃のクラスメイトの大半は敦史を好きだったんじゃないかと思う。
もちろん他でもない、私も。


普通ならば接点など無いような敦史と私が近づいた最大の理由。
それは家にある。
彼が家族と共に引っ越してきたマンションの一室が、私の家の隣だったのだ。


母が「お隣に新しく引っ越してきた方がご挨拶に来たのよ〜」って言っていたのはなんとなく覚えていたけれど、まさかそれが敦史の家族だとは思ってもみなかった。


それが分かったのは、彼が転校してきて1ヶ月ほど経った、初秋といった季節の頃。
夕方、ばったりマンションの通路で彼と会ったのがキッカケだった。


「あれ?同じクラスの……みとゆうり……」


彼が私を一生懸命思い出そうとしながらそうつぶやいた、拙い名前。
これで合ってるのか不安だな、って伝わるような言い方だった。