見上げれば、空には真紅の三日月。
辺りは岩に覆われた断崖絶壁。
振り返れば夜闇に沈む漆黒のお城。

……今の世の中、ゲームは3D装備が当たり前なのだろうか。
が、以前プレイした時はこんな事なかった気がする。
これは夢なのだろうか、と頬を抓って見たが、爪が食い込んで非常に痛かった。

「いや、リアリティのある夢なんだって。その証拠に、私、部屋にいた時の装備だし……」

もし鏡があるのなら、攻略本を片手に持ち、黄色いジャージと赤い斑点を着た残念な女性の姿が映る事だろう。
恐らくゲームのしすぎで、自分でも気が付かない内に眠ってしまったのだ。
先程まで画面越しに見ていた世界を見渡しながら、私は自分にそう言い聞かせた。

「いやーそれにしても良く出来た夢だなぁ。でもすごく寒いから早く目が覚めたいな、なんて……」

……ちょっと待て。夢の中では寒さを感じられるのか?

「いやいやいやいや。これは夢だから。まごうことなく夢だから!じゃないとこの超常現象を説明できないじゃない!」

首を振る。必死に振る。
が、私の自己暗示的な独り言はそれ以上続ける事が出来なかった。

目の前の地面が焼け、岩石がごろごろと崖から落ちて行ったからだ。

「ん、外したか?運の良い奴だな」

真紅の炎を振らせた方向を見やれば、赤い月と同色の目とかち合う。
彼の腰には夜空に溶けそうな黒い翼が生えており、引き締まった体を黒一色で包んでいた。

「……マジでか」
「次は外さない」

再度手の平に炎の花を咲かせ、私めがけて振り下ろす男。
けれど私は避ける事も忘れて、ただぼんやりと男を見つめていた。
三次元ではありえない程美しいその男は、私が先程までプレイしていた十八禁乙女ゲーム「君の血肉を貪りたい~生贄の乙女~」のメインヒーロー、カイン・ルシフェルだったからだ。